セガ・アーケードゲームヒストリー

2018.10.23 コラム追加!

第24回『ボーダーブレイク』1/1プラモデル制作秘話【前編】

2018年10月23日掲載

少しの前の話になるけれど、2018年7月2日~8日まで、東京メトロ丸ノ内線新宿駅メトロプロムナードに、『ボーダーブレイク』の実物大ロボット「輝星・空式(きせい・くうしき)」のプラモデル(組み立てまえの状態)が掲出されたのはご存じだろうか?

じつはこれ、PlayStation®4版『ボーダーブレイク』のリリース(8月2日発売)に合わせて行われた宣伝展開のひとつで、そのインパクトのある試みは各メディアにも取り上げられ、またSNSでも話題になっていたので写真を目にした人も多いはずだ。

▲新宿駅に掲出された『ボーダーブレイク』1/1プラモデル(組み立てまえ)。
写真の男性と比べると、そのパーツの巨大さがわかる。

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そして8月1日には、このプラモデルのパーツを組んで作られた全高約5メートルの1/1"輝星・空式"の姿が、秋葉原で行われたPlayStation®4版『ボーダーブレイク』の完成披露会でお披露目されたんですよね。

"実物大のロボットを作ってしまおう"という宣伝展開は、比較的アイデアとしては思い浮かびやすいものだと思うんだけど、それを実際に作ってしまう"セガ先輩"(敬意を表してこう呼ぶ)の器のデカさは、「やっぱり、すげえな!」と思うわけです。

新宿駅に掲出されたプラモデルのパーツを見たとき、とてつもなくワクワクしたし、同時に「さまざまなエンターテイメントを提供しつづけているセガらしいな」とも感じました。

たぶんですけど、他のゲームメーカーが同じ土俵に立ったとしてもやらない、というかできない企画だと思うんですよね(企画自体が通らないなど社風的な部分もあるかもしれない)。

テレビCMや雑誌広告、電車の中吊りポスターなど、他にもさまざまな宣伝方法があるなか、なぜ1/1プラモデルプロジェクトを手掛けることになったのか? それをどうしても知りたくて、セガ・インタラクティブの宣伝担当、西村ケンサク氏に質問をぶつけてみました。

ちなみに、西村氏は『ボーダーブレイク』の宣伝担当として、ファンのあいだでは"ニュルマン"のニックネームで知られる有名宣伝マンでもあります。

▲右が"ニュルマン"こと西村ケンサク氏。

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まず、西村氏いわく、PlayStation®4版『ボーダーブレイク』は、アーケード版の宣伝展開と方向性がまったく異なるという。

西村:

「アーケード版『ボーダーブレイク』は、稼働から9年が経ちました。おかげさまでいまでも多くのお客さまに愛され続けています。そういう意味では、絶対的なゲームのポテンシャルの高さといいますか、コンテンツの強さは認識していました。とは言いましても、世間一般的にはまだまだ認知度は低いと思います。そこでPlayStation®4でリリースするにあたり、さらに裾野を広げる、つまり新規のお客さまにより多く遊んでいただくためにはどうするか、ということをとにかく必死に考えたんです」

ふらっと入ったゲームセンターでデモ画面を見て、「楽しそうだな」と思えば(100円や200円を入れて)気軽に遊んでもらえるアーケードゲームとは異なり、家庭用ゲームはお店でパッケージを取ってもらうところからはじまる。何の情報を知らずにパッケージのゲームを買う人はほとんどいないといっていいだろう。それは、ダウンロードタイトルであっても同様だ。そういう意味でも、"認知度を高める"という宣伝展開は重要だったそうだ。

西村:

「そこで、『ボーダーブレイク』の魅力を知ってもらうためには話題作りが必要だと考えました。もちろんテレビCMをたくさん投下することも考えたのですが、『BORDER BREAK』にとって、それが正しい選択か悩みあぐねていました。正直、ものすごく費用もかかりますしね(笑)。であれば、SNSやメディアを通じて多くの方に知ってもらえるよう、アイデアで勝負しようと思ったんです。そこから、1/1プラモデルプロジェクトが生まれるわけですが、じつはこの企画の元ネタは、「実物大のブラストランナー(『ボーダーブレイク』のロボット)を作りたい!」という、以前からずっと言っている"プロデューサー&開発チームの想い"が具現化したものなんです」

▲実物大ロボットとして組み立てられる事となった、ブラストランナー「輝星・空式(きせい・くうしき)」のゲーム内での雄姿。

なるほどー。とはいえ、実物大ロボット(を使ったプロモーション)といえば、過去に人気アニメ作品でも実施され、話題になった例がある。それらとの差別化はどう考えていたのだろう?

西村:

「それはもちろん思っていました。これまでの事例は日本人なら誰もが知っている国民的アニメでしたし、造形物のクオリティも高く、ギミックもあって話題性抜群でした。ただ『BORDER BREAK』の実物大ロボットを作ってもプロモーション効果は低いと思いました。我々の場合は、ちょうどコトブキヤさんから(実物大ではない普通の)『ボーダーブレイク』のプラモデルが発売される企画が進んでいましたので、「それなら同じ実物大でもプラモデルなら話題性も高いし、他の巨大ロボットとも差別化もできるよね」という話になったんです」

ここで感心したのは、実物大1/1プラモデルのロボットを作ってそのまま展示しなかったことだ。単に「大きなプラモデルを作ってみました、すごいでしょ?」で終わらせなかったのには理由があった。

西村:

「ただ単に巨大ロボットを作っても話題性に欠けますし、宣伝効果としても埋もれてしまいます。そこで、本物のプラモデル同様に、ランナーからひとつずつパーツを切り取って、それを組んで実物大のロボットを作る、というストーリーを軸にしよう、という話になったんです」

この"ストーリー作り"という部分が、ゲームメーカーらしいというか、セガらしいというか、ボクが今回話を聞いたなかでいちばん感心した部分だ。

プラモデルが好きな人ならわかると思うが、箱を開けてランナーの束を見つつ、そこから完成品を想像する"もの作り"の楽しさを、上手に宣伝効果として働かせているな、と感じたのだ。

そういうワクワク感というか、エンターテイメント性が、今回さまざまな人々の琴線に触れたのではないだろうか。

西村:

「正直、盛大にスベったらどうしようかとビクビクしていたんですけど(笑)、おかげさまで、SNSでの拡散の勢いがすごく、ゲームを知らない方が「なんか新宿駅にゲームの巨大プラモが置いてあるよ」などとつぶやいてくれていて、そういう一般の方にも広く話題性を届けられたのがとても嬉しかったですね」

巨大なプラモデルのランナーは、写真映えする"画(え)"であることは間違いなく、新宿駅の地下道を行き来する多くの人々が、あの前で写真を撮っていたという。いまの時代"インスタ映え"も宣伝効果として重要なのだ。

西村:

「今回のような宣伝展開って、その場で接触する人たちの数だけ訴求するのでは効果は低いんです。あくまで、新宿駅のメトロプロムナードに掲出はしますけど、その先を考え、誰かが「面白い!」と思って写真を撮って、それをTwitterやInstagramなどにアップし、その投稿が拡散され、PCやスマホで見る人がいかに増えるかがこの企画の肝だと思っていました」

その後このプラモデルのパーツは切り取られ、そして組み立てられ、8月1日に秋葉原で行われた、PlayStation®4版『ボーダーブレイク』完成披露会で、その全貌を現すのである。

"後編"では、実物大プラモデルのパーツの切り離しや組み立てに関する裏話(?)なども伺っているので、ぜひ続きをお楽しみに!

▲見事組み立てられた実物大のプラモデル。

(【後編】はこちら!)

ローリング内沢

1970年、東京生まれ。ライター、編集者、ゲーム批評家。
ゲーム情報誌の編集者を経て、2000年4月よりフリーランスとして活動。
得意分野はゲーム、クラブミュージック、グラフィックデザインなど。
趣味が高じて、クラブDJとしても暗躍中。
イラスト:荒井清和

参考資料:セガ・アーケード・ヒストリー(エンターブレイン刊)

<span>第25回</span>『ボーダーブレイク』1/1プラモデル制作秘話【後編】